退職前の有給消化の進め方|残り日数の確認から、拒否されたときの対処まで
退職前に残っている有給休暇は、原則として全部使えます。有給休暇をいつ取るかは働く人が決められる権利で(労働基準法39条5項)、会社が日をずらせるのは「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られるからです。
ただ、実際には「引き継ぎが終わらない」「前例がない」と言われて使い切れずに辞める人が少なくありません。この記事では、残りの有給を全部使って辞めるための手順を、次の順番で説明します。
- 残っている日数を確認する
- 有給消化を逆算して退職日を決める
- 退職と有給消化をまとめて伝える
- 拒否されたときに打つ手
先に結論
- 有給は退職日までしか使えません。退職日を決める前に、残り日数から逆算するのがいちばん大事です。
- 会社が有給の日をずらす権利(時季変更権)は「別の日に与える」ための権利です。退職日の後には別の日がないため、退職日までの有給をまとめて申請された場合、会社がずらせる余地はほとんどないと一般に解されています。
- 話し合いで解決しないときは、労働基準監督署に相談できます。会社と交渉まで任せたいなら、弁護士か労働組合が運営する退職代行が選択肢になります。
1. 残っている有給の日数を確認する
まず、自分の有給が何日残っているかを正確に確認します。給与明細や勤怠システムに残日数が載っていることが多いので、そこを見るのが早い方法です。載っていなければ、人事や総務に「残日数を教えてください」とだけ聞けば十分です。退職の話をこの時点でする必要はありません。
目安として、フルタイムで働いている人に法律上与えられる日数は次のとおりです(労働基準法39条1項・2項)。
| 勤続年数 | 1年間に与えられる日数 |
|---|---|
| 6か月 | 10日 |
| 1年6か月 | 11日 |
| 2年6か月 | 12日 |
| 3年6か月 | 14日 |
| 4年6か月 | 16日 |
| 5年6か月 | 18日 |
| 6年6か月以上 | 20日 |
有給は2年で時効になるため(労働基準法115条)、前の年に使わなかった分は翌年まで繰り越せます。勤続6年6か月以上で前年分をほとんど使っていない人は、最大で40日残っていることがあります。40日は、土日を除くと約2か月です。
パート・アルバイトでも、6か月以上続けて働いて出勤率が8割以上あれば有給はあります。週の勤務日数が少ない人は、日数に応じた分が与えられます(比例付与)。「バイトだから有給はない」と言われても、それは法律上の扱いと違います。
2. 有給消化から逆算して退職日を決める
有給は「在籍している日」にしか使えません。退職日を先に決めてしまうと、残りの日数が入りきらなくなります。考える順番は次のとおりです。
- 最終出社日を決める(引き継ぎに必要な日数を見込む)
- 最終出社日の翌営業日から、残りの有給日数ぶんを数える
- 有給の最終日を退職日にする
たとえば、有給が20日残っていて、最終出社日を10月31日(金)にする場合、11月の平日を20日数えた日が退職日になります。祝日の扱いは会社の休日カレンダーで確認してください。
退職の申し出は何日前までに必要か
期間の定めのない雇用(正社員など)の場合、民法627条1項では、退職を申し入れてから2週間たてば雇用は終わるとされています。就業規則に「1か月前までに申し出ること」などの決まりがある会社も多いので、まず就業規則を確認し、できるだけそれに合わせるのが円満に進めるコツです。
有給が多く残っている人ほど、申し出は早めにしておくと、引き継ぎ期間と有給消化期間の両方を確保しやすくなります。
3. 退職と有給消化はまとめて伝える
退職の意思を伝えるときに、有給消化の予定も一緒に伝えます。後から「実は有給も使いたい」と言うより、最初に日程として出したほうが話がこじれにくくなります。
伝える内容は3つです。
- 退職したい日(有給の最終日)
- 最終出社日
- その間は残っている有給を使うこと
口頭で伝えたら、同じ内容をメールかチャットでも送って記録を残しておきます。言った・言わないの争いを防ぐためです。
【例文】 〇〇部長 本日お伝えしたとおり、〇月〇日付で退職させていただきたく、改めてご連絡いたします。 最終出社日は〇月〇日とし、翌日から退職日までは、残っている年次有給休暇(〇日)を取得させていただきます。 引き継ぎは最終出社日までに完了できるよう、〇〇さんと進めます。 よろしくお願いいたします。
有給の申請書(勤怠システムの申請)も、会社の手続きに従って出しておきます。
4. 有給消化を拒否されたときにやること
「引き継ぎが終わらないから有給は無理」「うちは退職前の有給消化は認めていない」と言われた場合は、次の順で対応します。
① 法律上の扱いを落ち着いて伝える
有給休暇は、働く人が請求した時季に与えるのが原則です(労働基準法39条5項)。会社が別の日に変更できるのは、請求された日に休まれると「事業の正常な運営を妨げる場合」だけです。「退職前だから」「前例がないから」は、それだけでは変更の理由になりません。
また、39条に違反して有給を与えなかった場合、会社には6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金という罰則があります(労働基準法119条)。
ここまでを感情的にならずに伝え、引き継ぎのスケジュールを具体的に示すと、多くの場合は話が進みます。
② 労働基準監督署・総合労働相談コーナーに相談する
話し合いで解決しないときは、会社の所在地を管轄する労働基準監督署や、各都道府県労働局の総合労働相談コーナーに相談できます。相談は無料で、予約なしで利用できるところもあります(詳しくは厚生労働省の案内ページで確認してください)。
相談に行くときは、次のものを持っていくと話が早く進みます。
- 退職と有給消化を伝えたメールやチャットの記録
- 有給の残日数がわかるもの(給与明細・勤怠画面のスクリーンショットなど)
- 会社から拒否されたときのやりとりの記録
③ 自分で会社とやりとりするのが難しいとき
上司と顔を合わせるのがつらい、何度伝えても取り合ってもらえない、という場合は、退職代行を使う方法もあります。
ただし、退職代行は運営元によってできることが違います。
| 運営元 | 退職の意思を伝える | 有給消化・退職日の交渉 |
|---|---|---|
| 民間企業 | できる | できない |
| 労働組合 | できる | できる(団体交渉) |
| 弁護士 | できる | できる(未払い賃金の請求などにも対応) |
有給消化を認めてもらうことが目的なら、交渉ができる労働組合か弁護士が運営しているところを選ぶ必要があります。民間企業の退職代行は、会社が「有給は認めない」と言ったときに、それ以上話を進められません。
よくある質問
有給を使い切れなかった分は買い取ってもらえる?
在職中の有給の買取は原則として認められていませんが、退職時に使い切れずに残った分を会社が買い取ることは、違法ではないとされています。ただし、会社に買取の義務はありません。まずは有給を使い切れる退職日を組むことを優先し、どうしても無理な場合に買取を相談する、という順番がおすすめです。
有給消化中に次の会社で働き始めてもいい?
有給消化中は、まだ今の会社に在籍している状態です。今の会社の就業規則で副業や兼業が禁止されていないか、社会保険の手続きがどうなるかを確認してから決めてください。
退職届を出した後でも有給を申請できる?
できます。退職日までは在籍しているので、有給の請求権もあります。ただし退職日を過ぎると残った有給は消えてしまうため、退職届を出す前に日程を組んでおくのが安全です。